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今回紹介いたしますのはこちら。

「前科者」第3巻 原作・香川まさひと先生 作画・月島冬二先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。


さて、保護観察官の阿川が、様々な「前科者」達と出会い、それ人々と向き合っていく中で自らとも向き合っていく本作。
阿川とは観察される側とする側と言う立場の違いはあるものの、お互い認め合う関係になったみどりという友人もでき、阿川の心も変わっていくのです。



阿川のバイト先の店長は、いつもの嫌がらせのような感じで、休憩室に昔よく見かけていたこんなフレーズの躍っているポスターを貼り出します。
「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」。
阿川が最近薬についての本を持ち歩いていることに気が付き、次の観察対象が薬関係の人物だと知っての行動のようです。
間違っても店に何て連れてこないでよ、禁断症状で暴れるとかナシだから。
そういやらしく笑いながら語る店長……
阿川はそんな店長の軽率な言葉に怒りを覚えずにはいられませんでした。
ポスターを荒々しく剥がし取り、そこに記されている文言を見せつけながら言うのです。
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人間は、何が起きても人間です。
だから、つらいんです。

今回の観察対象は、田村多実子と言う女性です。
薬物の使用で懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を言い渡されたのですが……
彼女は、その判決が言い渡された直後に、薬をやめる自信がないから刑務所に行きたいです、と口走ってしまうような、自己否定の気持ちの強い人物。
その過去は、母親やその恋人などから虐待やDV、暴行を受けるなど目を覆いたくなるような酷いことばかりをされてきた壮絶なものだったようで。
しかもまだそんな非道を働いてきた母親やその恋人などは、しかるべき報いは受けていない様子。
薬物の使用はもちろん許されないことですが、そこまで追い詰めてしまった本当の元凶がのうのうと生きている。
そんな現実に阿川は静かに、それでいて激しい怒りを覚えるのでした。

ですが今の彼女にできることは、多実子のために働くことです。いつものように牛丼を作り、部屋を掃除しながら約束の時間を待っていたのですが、ふと外を見ると約束の時間までまだ1時間もあるのに民子が庭先に隠れるようにして立っているのです。
声をかけると、遅れてはいけないと思って、申し訳なさそうに答えます。
どうぞと中に誘っても、まだ時間じゃないので、と遠慮するのです。
それでも中に誘おうとしますと、すみませんすみませんと彼女は何度も頭を下げてきました。
私、変なこと言ってますよね、と身を小さくする彼女に、阿川はそれなら銭湯に行きませんか、と彼女にお風呂を勧めました。
最初は遠慮していた彼女ですが、結局阿川からお風呂セットを受け取って銭湯に向かうことに。
その間に阿川はいつものように食事の準備をするのですが……
一向に多実子が帰ってくる様子がありません。
戦闘になれていなさそうな彼女、もしかしたら入り方がわからないのかな、と心配した阿川が銭湯に向かいますと、多実子はずっと銭湯の入り口でうなだれたまま立ち尽くしていました。
そして兆ドア側が着た瞬間、ぶんぶんと頭を振ってその場から駆け出し……
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公園の水道で頭を洗うのではありませんか!
……銭湯に入ったふりをするつもりなのでしょう。
彼女の葛藤がどんなものかがまだわからない阿川は、そっとその場を離れて自宅で民子を待つことにしました。
そして、何も知らないふりをして、銭湯ありがとうございました、と頭を下げる多実子を迎え入れるのでした。

食卓に座った多実子は、阿川に尋ねてきます。
自分がどうして薬を使ったか、言わないといけないでしょうか。
言うと、パニックになるかもしれません。
阿川はいつもの表情を崩さず、大丈夫ですよ、ある程度のことは聞いてます、と話さなくていいことを示すのです。
そして多実子は、自分には常識がない、自転車ものれないし遠足だって一回も言ったことがない、感じもアルファベットも読めない。
そう言って、自分が何もできないことを謝り続けるのでした。
阿川はその言葉を聞いて、優しく答えます。
つらかったですね。
今回は覚せい剤事犯処遇プログラムもありますし、私は保護観察官とは違う立場でお会いできればと思っています。
怖がらなくていいんですよ、私たちは今まであなたを人間扱いしなかった人たちとは違いますから。
昔、「人間やめますか」って言葉があったんですけど、多実子さんの場合は逆なのかもしれません。
人間になるため薬を使った、その時だけは人間になれた。
勿論それは偽物で、嘘の幸せです。
だからやめなきゃいけないんですけど……
一人で対処するのは難しいです。
依存は精神力や意思で治せるものではない、脳の病気ともいえるんです。
だから、「助けて」って言っていいんですよ。
民子さんは今まで一度もこの言葉を使ったことがないのかもしれませんね。
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でも、言ってください。
「助けて!」って。

多実子は阿川に少し心を開いた、のかもしれません。
ですがその後家にご飯を食べに来たみどりに、こんなことを言われてしまいました。
今度の担当はクスリか。
そいつに優しくしたろ?
ヤバイよ佳代ちゃん。
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あいつら距離感わかんないから、危険み溢れちゃうよ。




と言うわけで、多実子編が幕を開ける本作。
薬物依存と言う身近でありながら難しい問題に切り込んでいくこのシリーズですが、このシリーズはさらにまた別の問題も同時に進行していくようです。
今回の紹介部分には登場しなかったのですが、阿川が偶然知り合うことになる臼井と言う男。
彼との出会いが阿川の気持ちを大きく動かすことになるのです!
さらに臼井は多実子にも大きな影響を与えるきっかけを与えて……
様々な思いが交錯する多実子編は今巻の後半でいったん幕を閉じ、阿川は別の新しい人物を担当することになります。
そして、みどり、多実子、新たな人物を交えて物語はまた別の展開を迎えて行く様子。

数々の前科者、そして阿川たち「人間」が苦悩し、足掻いていく様を紡ぐ本作ですが、今巻でもその苦悩と、その間に見える希望と幸せがしっかりと描かれています。
阿川やその周囲の人物によって、過ちを犯した者でも苦悩だけではなく、ささやかでも幸せはやってくるのです。
ですが幸せだけで終わらないのが、人生という物。
幸せだからこそどうしても考えてしまう、そこから落ちてしまうかもしれない不安……
果たしてこの後、多実子は、阿川たちはどうなってしまうのか。
正解などない問題に切り込んでいく本作の今後から、目が離すことは出来ません!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!