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今回紹介いたしますのはこちら。

「無能なナナ」第5巻 原作・るーすぼーい先生 作画・古屋庵先生 

スクウェア・エニックスさんのガンガンコミックスより刊行です。



さて、衝撃的な結末を迎えた前巻。
目の前でミチルを失ってしまい、ナナの心中はかつてないほど揺れ動きました。
この出来事をきっかけに、ナナの中の何かは変わるのでしょうか?
ですが物語はナナの都合など何もお構いなしに、容赦なく進んでいくのです……



次々にその数を減らしていくナナたちのクラス。
大なり小なりショックを受けているクラスメイトを憂えて、あるいはそう言う体裁で……生徒たちの前にある人物が姿を現しました。
この島の管理と能力者育成の最高責任者の一人であると言う軍人、鶴岡タツミです。
タツミがクラスの面々の前に立つと、やはりそれぞれの体には緊張が走るようです。
ですがその中で、ナナの緊張はとりわけ激しいもの。
ナナとタツミには、何か深い関係がある、と言う事なのでしょう。
タツミはナナのことなど一切意に介さないかのように、平然とした態度で壇上に立ち、こう言いました。
諸君らの活躍は聞き及んでいる。
「人類の敵」と戦って死んだ者に敬意を表そう。
健闘を祈る、以上だ。
簡単に、終わらされてしまった上官の言葉。
クラスの面々からは、たまらず非難の声が飛び始めます。
ふざけるな、何が活躍だ、おまえさん方は本当に島の現状を把握してるのか?
何人死んだと思ってるんだ?
責任者と言うなら説明責任を果たしてくれ!
俺達のことなんて何にも知らないんだろう?
飛び交う怒号の中、ナナは依然顔面蒼白のまま立ち尽くしています。
そして、タツミもまた何も言わず言わせるがままにしていて……
暖簾に腕押し、と言った状況が続くと、次第にクラス全体で浴びせていた罵声も小さくなり、やがて静かになります。
そこでタツミは大きくため息を吐き、最長記録だ、と呟いてからこんなことを言い出すのです。
何人死んだと思ってる、だと?
貴様らがその口を閉じるのに十分もかかった、その間おれが、全員死んでおけばよかったのに、と思っていたのがわかるか?
とんでもない発言に絶句する一同。
タツミは、貴様らは今までの能力者の中では一番の無能で、御大層な能力があってもわめくだけで敵と戦おうともしなかったようだな、そんなに怖いなら本土に帰ってママに慰めてもらえ、と暴言を続けました。
当然そんな言葉に怒りをあらわにするものもいますが、タツミは暴言を続行。
たまりかねて氷使いのセイヤが壇上に上がり、タツミに食ってかかりました。
僕たちは能力者、あんたたちに頼まれて来てやってるんだ。
そう言ってもなお、だから帰れと言っている、これまで贅沢に施設を利用していた分は返してもらうぞ、と強硬な姿勢を崩しません。
セイヤはそんなタツミの態度に我慢できず、とうとう声を上げてしまいました。
脅そうっていうんだ。
普通の人間が「人類の敵」と戦えるって言うの?
と、その瞬間のことでした。
タツミが目にもとまらぬ速度で銃を抜き、発砲したのは!!
何のためらいもないその一撃は、セイヤの髪を焼きます。
あまりに予想外のことに怯えるセイヤに、タツミはこれが普通の人間の脅しだ、と顔色一つ変えずに言いました。
そんなことをされては静まり返らずにはいられない一同。
それを見計らいタツミはまた話し始めます。
身勝手話をしたのはそれほど戦況が悪いと言う事だ、いまでも他の戦線では多くの仲間が戦っている。
能力を持たない普通の人間すら戦っている、我々が敗れれば本土は蹂躙され焼け野原になり、家族や友人は惨殺される。
人類が滅亡しても。お前たちはそうし続けるだろう。
特別な能力がありながら!!
突然大きな声を張り上げるタツミ。
タツミは生徒たち何名家を例に挙げて話します。
モグオは能力でボヤを起こしたところを焼かまってここに来たと言うが、おれは真実を知っている、お前は子分をかばったんだ。
セイヤは自動車事故で姉を失い、その時もっと氷の力を扱えれば暴走車を止められたと思っているだろう。
他の者も同様だ、おれはずベ手を調べ上げてここに送り込んだ。
共に戦う仲間だからだ、知らぬわけがない!
中には能力があるが故に迫害された者もいる、家族と引き離されて理不尽を感じている者もいる、それでも圧俣野は何故だ!?
守りたいものがあるからではないのか!?
それは誇りであり、供であり、自分との約束であったりするだろう!
諸君らは本来熱き魂を持った少年少女達だ!
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その志を今一度思いだせ!
……さらにタツミはミチルが死んだことを明かし、一同の気持ちをあおります。
一度徹底的に扱き下ろしてから、仲間だと肩を貸して持ち上げるような演説。
まんまとその策略に乗り、クラスの面々は「人類の敵」と戦う意思を新たに盛り上がり始めるのです!
キョウヤのような思慮深いものは、このタツミの言葉が一堂に対して何の説明もしていない、ごまかすため、操るための形だけの激励だと言う事がわかるのですが……
普通の子供たちである他のクラスメイト達は、タツミの思惑通り、タツミを持ち上げ、タツミに従って戦おうと妄信的に盛り上がってしまうのです……

その後、ナナはタツミと二人で会話を交わします。
タツミは何を隠そう、ナナの育ての親のような存在。
ナナを人類の敵と戦う先兵として教育した男で、いまもなおナナは「私はあなたの羊」「一挙手一投足があなたのもので、呼吸することですらあなたの赦しを待ちます」と、彼の忠実な部下としての自覚を持っているようです。
が、ナナはどうしても聞かずにはいられませんでした。
ミチルは、本当に人類の敵だったのか?
本来こんなことを上官に聞くことなど考えすらもしないでしょう。
ともすれば、忠誠を疑われて消されることすらあり得ます。
ところがタツミは、それでいい、とナナを肯定!
人らしい感情を持ってくれてうれしい、友達を失って悲しんでいる事実を認め、みちるを殺そうとした男はお前のような立派な人間だったのか考え、憎め、と言います。
ただその憎む対象は自分だ、お前が孤軍奮闘しているのは俺のせいだ、お前の苦痛も絶望も俺が引き受ける、とナナを抱き寄せ……

ミチルを失ったナナは、戦えるでしょうか。
タツミはそんなミチルへの道しるべまで用意していました。
ミチルは意識不明だが、まだ辛うじて生きている。
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人類の敵ではあるが、お前の悠仁だったと言うのなら手を尽くして助けてやりたい。
……思いもよらないタツミの言葉。
今までの優しい言葉でタツミへの忠誠を一層高めていたナナは、さらにこの言葉で涙ながらに感謝の言葉を連呼。
ミチルのためにも、人類の敵を倒す!と再び戦う気力を取り戻したのです!

ミチルお助ける努力をするというものの他、タツミはナナと同じ訓練を施した後輩、助手を派遣する、と約束しました。
その人物は、真壁モエ。
モエはミチルの体を運搬用のバッグに詰めておりまして、そこにやって来たタツミの姿を見ると縋りついて頬ずりし、人類の敵の死体を収納しました、と報告してきます。
でも本当に助けるんですか、「委員会」に怒られるかもしれない、モエは怒られたくないです。
そうしゅんとなるモエに、タツミは言いました。
おれはたまに囚人に穴を掘らせ、その穴を埋めるような命令を下す。
今柊ナナにさせているのはそう言うことだ、おまえはそうなりたくはあるまい?
わかるな?
タツミは銃を取り出し……
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ミチルの亡骸の入ったバッグに何発か、駄目押しの銃弾を撃ち込みました。
そう、ハナからタツミにミチルを助けようなどと言うつもりはなく、ナナのことすらまともに信頼していなかったのです。
そんなタツミの言葉と、にらみつけるような視線を浴びたモエは……
にっこりと笑顔で、自分に与えられた使命を復唱しました。
はい。
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ナナしぇんぱいが裏切ったら、殺す、です。


と言うわけで、新たな局面を迎える本作。
今までは一応、ナナに一任されてきた能力者……人類の敵の排除。
ですがそのミチルの死による動揺などもあってその遂行が遅々として進まないナナにしびれを切らしたのか、あるいは別の理由なのか、タツミと言う大物の一人が現れました。
そして彼の介入により、モエと言う新たな爆弾を抱えることになったナナ。
少し前までのナナならば、冷静にターゲットの動向をうかがい、制御の難しそうな萌えですらも見事に操縦して見せたことでしょう。
ですがミチルに関しての様々な出来事が、良くも悪くもナナを変えることになります。
変わりつつあるナナは、ミチルのために人類の敵との戦いを継続するのでしょうすか?
それとも、また別の道を歩き始めるのでしょうか……!

今巻は、新展開が新たに動き始める前の序章と言った風情のお話になっています。
タツミの登場を嗅ぎ付けてジンもやって来て、二者の対立と戦いが描かれます。
能力者の生き残りであるジンは、隠れながらも逆転の目を探っていました。
このタツミの登場は、その意趣返しに最適な場面と言えるでしょう。
果たしてその復讐の行く末は……!?
さらに「人類の敵」との戦いもばっちり収録。
今度はクラスの誰が獲物となるのか?
ナナは今まで通り叩けるのか、モエはどんなことをするのか?
様々な興味の尽きない今巻、新展開の準備段階が描かれる、300P超の大ボリュームでたっぷり堪能できますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!