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今回紹介いたしますのはこちら。

「わが粛清」 楠本哲先生 

少年画報社さんのYKコミックスより刊行です。


さて、現在も様々なジャンルに挑戦し、活躍されている楠本先生。
本作はそんな楠本先生が得意としているジャンルの一つ、サスペンスものとなっています。
400P近い大ボリュームで描かれる衝撃のサスペンス、その内容はと言いますと……


突如として解雇を言い渡された漆原亮介。
あまりにも急すぎる宣告に、漆原もそうですかと納得はできず、食い下がっていくのですが……
ハッキリと、こう言われてしまうのです。
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ウチは、人殺しを雇うほどお人好しじゃないんだよ!!

首になったからと言って休んでいるわけにはいきません。
体を壊して入院してしまった妻の結奈ためにも、とにかく収入が必要。
職種を選んでいる場合ではないと、過酷な肉体労働に従事することを選んだ漆原なのですが、やはりここでも安息は訪れません。
休憩中、コンビニのおにぎり一つだけの昼食を食べていると、職場の若者が声をかけてきました。
おっさん、あの漆原だろ?
いつ出てきたんだよ、その名前ですぐわかったぜ。
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何年も前にワイドショーの話題を独占した猟奇事件、大学生監禁バラバラ殺人の犯人だよ!

当時の漆原は幸せの絶頂にいました。
結奈と、そしてかわいい盛りの一人娘、凛花との楽しい毎日。
大きくなったらパパのお嫁さんになって、ママのお嫁さんにもなってあげる。
3人でずっと仲良しで暮らすの!
そうほほ笑んでいた凛花でしたが……
ある日、バラバラ死体となって発見されました。
あまりにも無惨な亡骸をとなった凛花を見た結奈は、現実を受け入れられず、これが凛花なわけないじゃない!と絶叫してしまうのです。
それだけ残虐な事件を起こしたにもかかわらず、凛花を殺めた犯人は、親が警察の上層部と太いパイプを持つ会社の役員と言う事も影響し、捜査対象から外されて「平和な日常」を謳歌していました。
……煮えたぎる怒り。
それを抑えることは出来ず、漆原は自力で犯人を特定。
その犯人である大学生を監禁。
目玉をくりぬき、鼻を削ぎ、体を刻み……致命傷を与えないよう、11か月と言う長い時間をかけて痛めつけたのち、殺害したのです!

夜は交通整理のバイトを入れていた漆原。
ですが、そこもあえなく首になってしまいました。
採用を決めた人は全てを知ったうえで同情して採用を決めたものの、現場から人殺しとは働けないと言う声が出たため、どうしても雇い続けることは出来なくなった、とのこと。
昼の仕事も夜の仕事も相次いで失い、漆原は絶望の淵に立たされるのです。
家賃を払えないどころか、妻の入院費すら捻出することができない。
俺がここで何をしたっていうんだ。
最愛の娘の仇を取って何が悪いんだ!!
口には出せない、怒りの叫び。
心の中の絶叫は、夜の街にただ吸い込まれていくだけでした……

誰もいない家に帰る気持ちも起きず、公園でうつむいて座り込む漆原。
するとそこに三人の男が現れました。
いかにもと言った強面の二人の男。
そしてその二人に挟まれて立っていた中央の金髪の男が、漆原に話しかけてきます。
漆原亮介さんですね?
懲役10年の実刑判決を受け服役、模範囚だったため刑期が短縮され、三か月前にめでたく仮釈放。
しかし世間の目は詰め悪、金を稼ぐ術が見つからない。
自分のことを事細かには蒼くしている謎の男。
驚く漆原に、男はさらに続けます。
あなたは何も悪くない、反省もせずのうのうと生きていた犯人を自力で特定し、制裁を加えただけ。
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こちら側に来て、一緒に理想の世界を作りませんか?
明らかに怪しい、勧誘の言葉。
ですがもはや拠り所のない漆原からすれば、その誘いは天の助けにも思えるもので……

結奈退院の日。
漆原は彼女を連れて、広いマンションの一室に「帰って」来ました。
部屋は綺麗で大きなテレビや立派なソファまでついている豪華な部屋。
これはあの男の会社の「社宅」だと言います。
職につけない受刑者をサポートする民間企業だとのことで、久しぶりに安心して生活できそうな雰囲気に、結奈の顔は自然と笑顔になっていました。
彼女のこんな安らいだ絵は尾を見たのはいつぶりでしょうか。
その顔を見ただけで、漆原は安堵するのですが……
そこに、あの男からの仕事の依頼の電話がかかってきました。
その電話を受けた漆原は、明らかに動揺するものの……今夜だ、という仕事の場所へと出かけて行くのでした。

そこは人でごった返す電車のホームでした。
くちゃくちゃとガムを噛みながら、電車を待つ一人の男。
事前にもらった情報によると、その男は6年前に無免許運転でひき逃げ死亡事故を起こしたとのことで。二人の幼い小学生が犠牲になったものの、当時の男は未成年だったこともあってわずか6年で出所。
遺族への謝罪もなく、いまでも親の車を無免許で乗り回していると言うのです。
許されるはずがないでしょう。
漆原さんならわかるよね?
誰かが天誅を下さないと……!!
そう、あの金髪の男が与える仕事とは、そう言う事だったのです、
そうして、理想の世界を作る……!
その言葉やその行動に完全なる正当性がある、とは決して言えないでしょう。
ですが……漆原に他の選択肢は残されていませんでした。
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俺にできることは残された結奈を守ることだけ。
結奈が笑ってくれるなら、俺は……なんだってやってやる!!
決意を固めた漆原は、電車がホームにやってくるタイミングを見計らい、ターゲットの背中を押して……!!



と言うわけで、絶望に暮れる男に差し伸べられた、救いの悪魔の手。
娘の仇を討つためだったとはいえ、残忍な殺人を起こした漆原に対しての世間の目は厳しいと言わざるを得ません。
そこで差し伸べられた手が、あの金髪の男の手だったわけです。
男が与えてくる仕事は、更生することのない悪への裁きを与えるというもの。
ですがどんな命題があろうとも、人殺しであることは間違いありません。
ただ一人残った家族、結奈の笑顔を守るため、漆原は再び犯罪に手を染めるのでしょうか?
家族を守るか、人としての一線を守るか……
そんな葛藤をする漆原が描かれて行きます。

……が、徐々に本作はその色を変えて行くことになるのです。
この「社宅」に住んでいる者は、みな漆原のような過去を持つものばかり。
そんな環境に住んでいる、と言う事を結奈は知らず、その結奈が知らないと言う事自体にも不安を感じる漆原の精神はすり減っていき……?
社宅に住む、普通とは言えない住人達。
金髪の男が課す仕事。
消耗していく夫を案じる結奈。
そして漆原自身も気が付かなかった、いや、見ないふりをしていた内に秘めたモノ……
様々な歪みが重なり合い、物語はどんどんと不穏に、血生臭く、無惨になっていくのです……!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!