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今回紹介いたしますのはこちら。

「チャコちゃんめしあがれ!」第1巻 ただりえこ先生

少年画報社さんの思い出食堂コミックスより刊行です。


ただ先生は00年に別名義でデビューした漫画家さんです。
07年より現在の名義へと改め、伝記漫画の作画や映画作品のコミカライズ、原作付き作品などを手がけられてきました。
近年では食事漫画を手がけられ、17年にはとうとうただ先生単独名義での初単行本、「乙飯日記」を刊行。
そして本作はただ先生初の単独名義で巻数表記のある単行本となっています!

そんな本作は刊行レーベルからもわかる通り、食事漫画です。
ですが今や石を投げれば食事漫画にあたるような時代ですから、普通の食事漫画ではない何かの要素が無ければ目立つことはできません。
本作では、普通の食事漫画とは違う二つの要素が盛り込まれておりまして……?



1970年、大阪。
そこでは一大イベントが催されていました。
日本中を熱狂の渦に巻き込んだそのイベントは、大阪万博。
チャコちゃんこと小森寿子は、親戚のおばさんを頼り、東京からわざわざ大阪万博にまで足を運んでいました。
月の石、ロボット、太陽の塔。
どちらを向いても、「輝かしい未来」を感じさせる光景に胸を躍らせるチャコでしたが、そんな中でも一番印象に強く残ったのはこれかもしれません。
家でたまに食卓に上るものとはまるで違う、豊かな味わいの……ハンバーグステーキ!!
その素敵な味わいは、万博のテーマである「人類の進歩と調和」がすぐ目の前まで来ている、とチャコに感じさせたのでした。

少し時は流れ、71年の東京。
自宅で写真館を営んでいる小森家で、チャコは何やらおいしいものをおなかいっぱい食べる夢を見ている様子。
チャコもこの春からめでたく大学生、いつも手厳しい言葉を投げかけてくる兄の進に叱られながら、寝ぼけ眼で食卓に登場しました。
白いご飯に納豆、おばあちゃんの糠漬け。
目立ったものはありませんが、どれもチャコが大好きなもので、朝からご飯はどんどんと進みます。
……が、どうしてもあの万博で食べたハンバーグの味が、時折頭をよぎってしまうのです。
うっとりしているチャコに、よっぽどおいしかったんだねぇ、と尋ねてくるおばあちゃん。
チャコは、おばあちゃんにも食べてもらいたかった、何とも言えない美味しいソースがかかってて……カメラ持って行って写真に撮っておけばよかったなぁ、と遠くを見つめて漏らすのです。
が、進は、撮るって何をだよ、と即突っ込み。
何せこの71年は、写真が今よりもずっと手の届きにくい時代です。
スマホどころか携帯電話すら件の大阪万博でデモンストレーションが行われるほど手の届かないもの。
さらに一世を風靡した使い捨てカメラも広まったのは80年代後半で……
このころはある程度お値段の張るカメラと、ある程度お値段の張るフィルムを使い、ある程度のお値段を払って写真屋さんに現像してもらう、ある程度お金のかかるものだったのです。
それを「食べ物を取る」ために使うなんて
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馬鹿か、フィルムがもったいないだろう!と、進は怒るのです。
お父さんは、チャコが以前遊びで撮った(そしてそのあと叱られた)おばあちゃんのご飯の支度中の写真が結構お気に入りのようで、店先に展示したりしています。
あれを見てるとお腹が減る、とお客さんには割と好評らしいのですが……
それでも進は納得できないようです。
飯の写真なんかくだらない、女は半径三メートル以内のことしか見えてない、万博や大学に行く暇があったら家の手伝いでもして見合いでもした方がよっぽと女として幸せだ……
と、当時らしい凝り固まった価値観の持論を並べ立てるのです。
ですがそんな光景もいつものこと。
チャコどころか、おばあちゃんもお母さんもまともに話を聞かず……
チャコはさっさとご飯をかきこみ、出かけていくのでした。

ある日のこと。
お父さんから、チャコにアルバイトをしないかと持ちかけられました。
お得意さんの結婚式場での撮影にアシスタントとして行ってみないかとさそわれ、チャコは一も二もなく快諾。
花嫁さんが見られる、と言う動機で軽い気持ちでやって来たものの……いざ来てみますと、自分たちからすれば数ある結婚式ですが、当人からすれば一生に一度の経験である、という重大な仕事であることを知らされます。
緊張するチャコですが、お父さんの指導をうけなんとかかんとかアシスタントとして仕事をこなしていくのです、
ですが途中でお父さん、今日は目がかすむなぁ、と言い出しました。
そこで、念のためチャコも撮ってみな、いいのがあったら使ってやるよ、とお父さん。
俄然張り切ってカメラを構えるチャコなのですが、進の「女は視野が狭い」と言う言葉もちらつき、どうもシャッターチャンスをゲットすることができません。
と、そこで突然式場の従業員の女性がチャコに声をかけてきました。
なんでも通勤途中にチャコの家の写真屋さんの前を通るとの事で、その度にチャコのサインのある、おばあちゃんの食事の支度の写真を見ているのだとか。
あの写真変ですよね、見てる世界が狭いっていうか、とうつむくチャコなのですが、女性はこういってくれました。
あの写真見ると、田舎の祖母を思い出して幸せな気持ちになるのよね。
通るたび心の中で、今日も一日頑張りますって声かけてるくらいなのよ。
それに見てる世界が狭いからこそ気づくこともあるわよ。
誰かと同じ目線で世の中を見なくたっていいんじゃない?
……その言葉のおかげで、チャコは吹っ切ることができたようです。
今ここで起きている様々なことが、後で鮮明に蘇るように。
自分しか取れない写真を撮る……!!
そんな意気込みが出すぎてしまったのでしょうか。
チャコは通りがかった給仕の女性にぶつかってしまいました。
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更に悪いことにその女性はワインを運んでいる最中で、そのワインがこぼれて参列者の男性のスーツにかかってしまい……!!
大慌てで謝罪しようとするチャコですが、ここは大人の出番です。
お父さんがここは良いから外に出ときなさい、とチャコをさがらせるのでした。

そんな中途半端に終わってしまったチャコの初仕事。
ですが仕事は仕事だから、とお父さんはしっかりバイト代を渡してくれました。
仕事なんて何一つできなかった、むしろいろんな人に迷惑をかけてしまった。
私が仕事するなんて夢物語なのかな……
落ち込みながら一人家路につくチャコですが、お腹の方はおとなしくしてくれません。
お昼ご飯を食べていなかったせいか、お腹の虫が大きな声で鳴き始めました。
そしてたまたま通りがかったそこに……ハンバーグステーキを出すお店が。
いつもなら手が出ない所ですが、今日チャコの手にはそれなりのお金が握られています。
……落ち込む気持ちを払拭するためにも……チャコは意を決し、店に入るのです!!

生まれて初めてする一人の外食。
高まる緊張の中でてきたハンバーグは、見るからにおいしそうです。
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いただきますとハンバーグにナイフを入れると、ふわりといい香りが漂ってきて……
口の中に広がる、お肉のしっかりとした食感、ほろ苦く甘いソースの味わい。
万博のハンバーグが思い起こされる味ですが、不思議と今日のハンバーグはまた格別な気がします。
ハンバーグを口に運ぶたび、戻ってくる活力!
次は絶対もっとうまく撮る!
落ち込んでいたこのタイミングでハンバーグに再開できるなんて、ついてるんじゃない?
そんな素敵な気持ちに復活したチャコは、ついハンバーグの写真を撮ってしまうのでした。

後日、例の結婚式の夫婦がお店にやってきました。
チャコはご迷惑をお掛けしましたと平謝りするのですが、夫婦からは思いがけない言葉が返ってきました。
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ありがとう!
素敵な写真ばっかりで、特にお料理を食べてるのがみんな本当美味しそう。
なかなか食べてるところ撮ろうとは思わないもんなぁ、面白いよこれ。
チャコがチャコの世界で撮った写真の数々は、夫婦の気持ちを動かすことができたようです!
うっすらと涙を浮かべながら、こちらこそありがとうございます!と、チャコは笑うのでした。

私のやったことは無駄じゃなかった。
やっぱり新しい時代の幕はもう開いてるんだ。
「人類の進歩と調和」も、まずは小さな最初の一歩から!
チャコは、確かな手ごたえを感じて、今日もおいしくご飯を食べるのです。
その一歩は、意外なところで確かなものであることが証明されたりしていました。
何気なく置かれていた、ハンバーグステーキの写真。
その写真を手に取り、眺めていた進のおなかが……
小さく、鳴ったのです!




と言うわけで、70年代のノスタルジック要素+写真撮影と言う要素を盛り込んだ食事漫画となっている本作。
写真が手軽になって今でこそ、SNSなんかに食事の写真をアップするのも当たり前になっています。
ですがこのころは写真が少し手の届きにくい存在なうえ、SNSのようなだれでも手軽に発表できる場が存在しない為、気軽に食事を撮るなど考えられなかったわけです。
そこに、自分の見える独特の視点で切り込んでいくチャコ!!
この後、チャコの食事撮影は単なる趣味ではなくなっていきます。
写真屋の娘だから趣味にできていた食事撮影は、どうやって趣味ではなくなっていくのか?
紹介させていただいたこの第1話から、しっかり今後の展開に繋がっていく伏線が撒かれていまして、読み進みていくにつれて、あれがああつながっていくのか!という驚きももたらしてくれるのも本作の魅力でしょう!
もちろん本作のメインとなる料理の数々も、時代背景が時代背景だけにスタンダードな物ばかりで、それだけにおいしさがありありと伝わってくる物ばかり!
さらに当時の世相がわかる事件などの時事ネタも盛り込まれ、ノスタルジック要素の方もしっかりと楽しめるのです!

食事漫画であり、チャコの成長物語であり、ノスタルジーに浸れる漫画でもある……
本作には様々な楽しさが詰め込まれています。
一話読みきりになりがちな食事漫画ですが、軸となるストーリーもあり、先が楽しみになること間違いなしでしょう!
連載誌が隔月刊の為、第2巻が出るのは結構先になってしまいそうですが……ここはじっと待つしかありませんね!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!