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今回紹介いたしますのはこちら。

「吾峠呼世晴 短編集」 吾峠呼世晴先生 

集英社さんのジャンプコミックスより刊行です。



さて、「鬼滅の刃」がブレイク中の吾峠先生初の短編集となる本作。
本作は13~15年にかけて発表された、吾峠先生のデビュー作を含む読み切り四作が収録されています。
「鬼滅の刃」と言えば激しいバトルと血生臭さ漂うドラマ、そして脱力必至のシュールなシーンなどが魅力的ですが、忘れてはならないのが吾峠先生ならではの独特なキャラクターと、物語全体に漂う雰囲気。
本書に収録された作品にもそれはしっかりと感じられるのです!
今回はそんな四作品の中から、今回は「蝿庭のジグザグ」を紹介させていただきたいと思います!


ベランダ一面に咲き誇る花に水をやる男、じぐざぐ。
彼のもとに一通の電話がかかってきました。
電話の相手は何やら依頼をしているようなのですが、じぐざぐは人に頼む前に自分で頑張れ、いま水やりで忙しい、とつっけんどんに返しております。
ですが向こうもじぐざぐの扱いにはなれているようで。
じゃあお前は病気になっても病院に行かないのか、と餅は餅屋的な意見で反撃。
じぐざぐは病院なんていかない、人に頼るなら死んだ方がマシ、と強がるのですが……
電話口の相手は、ビビってんだろ、病院が怖いんだろ、と挑発!
するとじぐざぐは、ビビってない、と怒りのままに言い返し……
まんまと依頼を受けることになってしまうのでした。

この市では、首つり自殺が頻発していました。
一か月に21件。
それはあまりにも異様な数字です。
じぐざぐはその事に関して調査をすることになったのですが、不審な首つり自殺をした死体、と言うのはもう火葬済み。
そんな奇妙な依頼を持ち込まれる餅屋であるじぐざぐをもってしても、何の痕跡もなく犯人を捜すのは無理です。
止む無くじぐざぐはその痕跡から探すことになるのですが……
街を歩いていると、知り合いのおばあさんに声をかけられました。
重そうな荷物を持っていますが、じぐざぐは持ってあげません。
しっかり手足を使わないと年寄りはすぐ身体が動かないようになる、人に甘えないで頑張りなさい。
本気かどうかわからないそんな言葉を受けたおばあさん、こちらも本気かどうか、はいはい私はひとりぼっちで頑張りますよ、ああ寂しい、と返します。
するとじぐざぐ、生物はみんな生まれて死ぬまで一人ですから寂しがらないでいい、俺の蠱毒なんて半端じゃない、と語りだし……
そんなじぐざぐですが、おばあさんに欲しがっていた花の種が来ましたよ、と小袋を差し出されると豹変!
うちまで送るわ、とにっこり笑い、しかもこれから仕事だから急ぐ、とおばあさんを背負って彼女の住むアパートまで向かうのです!
ですがどうしたことか、おばあさんはおばあさんの住んでいる部屋ではない部屋に入っていきます。
その部屋は、知り合いの老人の住んでいた部屋です。
お互い家族がいないから、生きてる方が弔う約束で……と、先日亡くなった彼の簡単なお葬式をするために来たのです。
その老人も花が趣味で、お部屋にはたくさんの花が飾られていました。
ですがじぐざぐは、どれも元気がない、と言います。
急にこの老人が死んで悲しんでいるのでしょうか。
一体なぜこの老人は死んだのか?
じぐざぐが尋ねると、おばあさんは教えてくれました。
首つり自殺なんだけど、ちょっと信じられないわ。
先立った奥さんの分も精一杯生きるって言ってたもの。
……これは呪いかもしれない。
おばあさんの話を聞いたじぐざぐは、そう呟きます。
おばあさんは、じゃあ呪った人に罰を与えてちょうだいな、とおばあさん。
勿論それはまた半分冗談の言葉なのでしょうが……じぐざぐは、それこそが仕事なのです。
老人の遺体に「吸い取り種」を植える。
すると呪いの力を吸い取って木になり、やがて「辿り種」を落とす。
それを一つにまとめると……そこから小さな花が生まれ、呪いの主のところに案内してくれる……”
おばあさんが後ろを向いている間に、一連の痕跡を手に入れたじぐざぐ。
じゃあちょっとどつきに行ってくるわ。
そんな言葉を残し……おばあさんが振り向いた時には、じぐざぐは忽然と姿を消していたのでした。

街を走る、着物姿の女性。
結婚式に向かうために振袖を着たのですが、そのせいで出がけにバタバタしてしまい、飼い犬に水を上げてない気がして慌てているようです。
きなれない振袖で何とか走り続ける彼女ですが、大慌てで走っていたために前方不注意になってしまい、曲がり角から出てきた男性にぶつかってしまいました。
あ、すみません、と彼女が謝るのと同時に、その男性はこう呟きます。
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「首を吊って死ね」。
あまりにも突然すぎる、「呪い」の言葉。
女性は、変質者!?と思い切り引いてから……再び走り出しました。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、男性はつぶやきます。
訂正してほしいな、僕は変質者じゃなくて……殺人者だ。

女性は、鋼板にくべきか、いや早く帰って犬に水をあげなきゃ、と考えながら……
ホームセンターで、縄を買っていました。
そして気が付けば自分の足で階段をのぼり、どこかのビルの屋上にやってきています。
そこでようやく自分がいつの間にか知らない場所に来ていることに気がついた女性ですが、気がついてもなお体は勝手に動き続けます。
手際よく縄を屋上の手すりに結び付け、もう一方を輪にして自分の首を括り……
手すりを乗り越えて……!!
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私、何してるの!?
まったく自分のしていることがわからない女性。
そこに、あの殺人者を自称する男が現れました。
君は首をつって死ぬんだよ、自殺する。
僕がやらせてるから本当は自殺じゃないんだけどね。
なぜ自分が殺されなければならないのか?
恐怖とともに沸き上がる疑問に、男はこう答えました。
ごめんね、僕も知らない。
どうでもいいからね。
金さえ払ってもらえれば、依頼の理由なんていちいち聞かないよ。
僕は呪殺屋をやってる、人を呪い殺す仕事だ。
一人10万で殺す、安くて手ごろだろ?
君の命はそれくらいの価値はあると言える、君のために10万も払う人がいるんだよ、素晴らしい。
よかったね。
さよなら。
男がそう言うと同時に、女性は屋上から飛び降ります。
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こうして、新たな首つり自殺者が一人増える……
そう思われたその瞬間でした。
壁から木が生え、飛び降りたはずの女性を救ったのは!!
そして、男の背後に
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じぐざぐが現れたのは!!

と言うわけで、呪術屋を懲らしめることを仕事にしている、じぐざぐの戦いを描く本作。
見た目にしても正確にしても、吾峠先生らしさの溢れるキャラクター造詣が楽しめます。
この後じぐざぐと呪術屋の男の戦いが描かれるわけですが、その戦いはわかりやすいバトルにはならず……吾峠先生節が効いた、独特なものとなっていくのです!

そしてそれらは他の読み切り作品でもバッチリと収録。
収録されている4作は、どれも依頼を受けて、人に害を与える敵を倒す、仕事人タイプの作品になっています。
そんなお話のパターンとしては同じなのですが、それぞれにしっかりとした独自の味付けがされているのです!
デビュー作「過狩り狩り」は鬼滅の刃の原型となるバトルアクション。
先日発売されたファンブックには連載用のネームが収録されておりましたが、この作品には鬼滅の刃を読んでいる方ならばオッと驚くちょっとした要素もあり、こちらも十二分に楽しめることでしょう!
「文殊史郎兄弟」は本作の表紙を飾った作品でもあり、単行本内に設定資料もたくさん収録されておりまして、どうやら吾峠先生にも思い入れがあるらしい作品。
主人公の兄弟の持つ能力が非常に変わっていて、少年誌の漫画の主人公らしさがまるでないのがまた面白いところでしょう!
「肋骨さん」は文殊史郎兄弟と同じ世界のお話のようで、今回収録された作品の中では最も「能力バトル」をしている作品です。
戦闘シーンなどには「鬼滅の刃」を彷彿させる場面なども少なくなく、こちらも吾峠先生ファンならば楽しめること間違いなしの内容になっているのです!

その他吾峠先生のコメントや描き下ろしのカットなどを収録した本作。
何やら紙質も上等なものとなっていますし、カバーもマット仕様+箔押しと、非常に力の入った一冊になっております!
吾峠先生ファンならばまさに必携の一冊と言えましょう……!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!