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今回紹介いたしますのはこちら。

「ギークサークルクライシス 姫の恋路はバグだらけ」第1巻 あおいくじら先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックスより刊行です。


あおい先生は相生青唯名義で主に東方系の同人やアンソロジーコミックで活躍し、13年には電撃コミックグランプリで奨励賞を受賞するなどの活躍をされておりました。
18年ごろに現在の名義へと改名し、19年よりとなりのヤングジャンプで本作の連載を開始。
めでたく初の単行本刊行となりました。

そんなあおい先生の描く本作は、部活物+ラブコメというジャンルで言えば非常にスタンダードな物。
ですがその主役となるキャラクターはちょっぴり変わった性格をしているようで……?




4月。
桜舞う……といいたいところですが、北海道の奥地にたたずむここオホーツク工科大学では、雪が待っておりました。
4月に入ってなお凍てつくこの地に、新入生たちは徐々にこの環境に慣れ始めておりました。
そんな新入生の一人、白雪みなもはいつものように、学食で一人ぼっちの昼食をとっておりました。
みなもの耳には、あの子いつも一人だけどさみしくないのか?一人が好きなタイプなんだろう、でなければ女一人で学食なんて耐えられるはずがない、などという声が聞こえてまいります。
違う違う、私を学食ぼっちなんてド底辺と一緒にしないでいただけます!?……と口には出せないまま、手にしていたスプーンを握りしめてわなわなと震えるみなも……
友達だっているんだから、と通りがかった友人の硝子に声をかけようとするものの、学食でバイトをしている彼女は忙しいからと全く取り付く島もなし。
みなもは認めたくないようですが、入学して一か月ほどで早くも新入生たちの明暗がはっきりし始めているようです!

とはいえそんな状況に陥っているのは自業自得な面もあります。
男はキモいオタクか馬鹿なチャラ男かパチンコ漬け、女はそういう連中に囲われていい気になってるオタサーの姫ばかりだ、と周りの生徒たちを一様に見下して遠ざけているうちに、どんどんと皆がみなもから孤立!
気づけばすぐそこにドロップアウトの音が聞こえてくる状況になっていたのです。
こんな調子じゃ一年ももたない。
オタサーの姫でもなんでもなればよかった、この大学にはもうだれ一人私を気にかけてくれる人なんて……
食べかけのカレーを前にうなだれておりますと、そこに声をかけてくる男性が現れました。
眼鏡のパッとしない印象の彼、みなもの腰かけている机に、自分のサークルのビラを置きたいとのことで。
もう行くんでどうぞ、とその場を離れようとするみなもをみて、彼はまだ全然食べていないじゃないですか、置くだけなので気にせず食べてください、といいました。
ああいいんです、食欲ないし……と、そのまま席を離れようとしたみなもなのですが、彼はさらにこう続けるのです。
次は実験で長いんですから、きちんと食べておいたほうがいいですよ、白雪さん。
……自分の名前を、知っている?
それも、何の講義をとっているかまで……
思い起こしてみれば、彼のことは共通学科で見たことがありました。
確か同じコースで、頭がいいと評判の男子です。
一度も話したことがなかったのに、自分のことを知っている……
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なるほどそういうことね、もしかして私のこと好きなんじゃ!?
いや、好きなんでしょ!絶対そう!!
なんというか、単純といいますか、思い込みが激しいといいますか、楽観的といいますか……
ともかく、(自分に都合が)いい方向に勘違いしたみなもは、つまりこのチラシをここに置いたのも自分にこのサークルに入ってほしいということなのだろう、と決めつけまして。
そして彼女は、彼、花屋敷のいるサークル、電子創作同好会に入会することになったのでした!!

瞬く間に時は流れ、3月は下旬になっておりました。
彼女はサークルの先輩にお菓子をあーんしてあげるなど……見事にオタサーの姫としての地位を築き上げておりました。
豚に餌をやってるときの感じだわ、パパを手伝うたびあの匂いにうんざりしてたなあ、あれが嫌で理系に進んだのに、運笑みには抗えないものね。
そんなことを考えながら、ともかくぼっちは脱出して安寧を手にしているみなも。
するとお菓子をあげていた先輩、兎澤先輩から水面の持っていたお菓子のパッケージについてこんな話を持ち掛けられました。
そのパッケージにプリントされているのは、声優の塩原こころじゃないか、その子みなもちゃんに似ているよねぇ、君も素敵な声をしているし、声優になれるかもね!
兎澤先輩渾身の誉め言葉だったのでしょうが……みなもは、はんかくさいこといってないで作業したらどうです?と冷たくあしらうのでした。
と、その直後、みなもを呼び出す声が聞こえてきます。
その声の主はほかならぬ花屋敷。
みなもがいそいそと彼のもとへ向かいますと、偉大なる兎澤先輩からお褒めをいただいたのにあの態度は何ですか、と怒ってくるではありませんか。
あれは先輩がガチで限界オタクなのがいけないんだ、と言い訳するみなもなのですが、花屋敷はそれも否定。
僕らはオタクではなく「創作者(クリエイター)」!
ここにいる人たちはみな広い知識と高度な能力を有し、その才能を生かして創作活動に邁進する選ばれし存在なんですよ!オタクの中でも!!
……結局オタクなんじゃないかと心の中で突っ込むみなもに、花屋敷はさらに容赦ない言葉を浴びせます。
一年たっても相変わらずですね、いい加減賑やかし以外にすることはないんですか?
とにかく君もいい加減捜索を始めてくださいね、もう過ぎ新学期で新入生も入ってくるんですから。
……みなもは、花屋敷に全く相手にされていませんでした。
優秀なクリエイターである彼が興味を示すのは創作のみであり、創作活動をしないみなもには当然興味を示しません。
今までは愛想を振りまくことでサークル内の居場所を作っていたみなもですが、これでは花屋敷には通じないと悟り、いよいよ捜索に手を付ける必要性を感じ始めていたのです。
とはいえ花屋敷目当てで入会したみなも、花屋敷と絡めなければ捜索する意味がありません。
そこでみなも、花屋敷のゲーム製作を手伝おうとするのですが、今の君が僕の何を手伝うっていうんですかとまたも相手にされず。
君にしかできないことが万が一でもあれば別ですけど、とまで言われてしまうのですが……そこでみなもはひらめきました。
先ほど兎澤先輩とかわしたちょっとした会話……
そう、声当てです!!

声なんてなくてもいいんじゃないかと冷めた反応を見せた花屋敷ですが、今度はそこで引かないみなも。
最近は豪華声優を起用してそれ以外はパッとしないゲームが少なくない、ということは逆に考えると、ボイスというのは他を差し置いてもなお必要と思わせる重要な要素なのではないか!?
そう力説するみなもに、花屋敷は一定の説得力はある、とうなずきます。
そして、女性の声というのは自分にはどうしてもできない仕事であるということも認め……
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声を生かすというのは普段からわいわい騒いでいるだけの君にぴったりですね、とグサリとやってはきたものの、とりあえずそのアイディアを試してみようという気にはなってくれた様子。
そこでみなもは、ちょうどその時モニターに表示されていたキャラクターのセリフを読み上げてみることにしました。
心なしか自分に似てる気がするし、と自信満々に声を上げたのですが……直後、花屋敷はみなもに壁ドン!!
いきなりすぎるけど効果覿面か、と戸惑うみなもでしたが、もちろんそんな都合のいいことがあるはずもなく……
やめて下さい、僕のメイプルを汚さないで!!
……そう、花屋敷は言ったのです。
そのキャラクター、メイプルは花屋敷の思い入れが深いキャラの様で、彼女は高潔で正義感に熱い姫騎士、姫は姫でも君のように騒いでばかりのお調子者じゃないんです!とまくし立ててきて……
こうまでされては、花屋敷が自分に興味がないと認めるしかないみなも。
花屋敷が自分を好きだと思ったのは、勘違いだったのか……
そう現実に直面しようとしたその時、花屋敷がまくし立て続けていた中でこんなことを言っていることに気が付きました。
そもそも僕の作品に無理に参加することはないんですよ、自分でそれを生かした作品を作ればいいじゃないですか。
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普通に声はかわいいんですから!
普通に声優みたいなかわいい声出せるんですし、それを自分の武器にすれば、よっぽどそのかわいい声を活用できる……
思わぬタイミングで、まぎれもなく自分に向けて「かわいい」という言葉を連呼されたみなも。
いろいろテンパってしまいまして、
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うるせー!と花屋敷の口の中にお菓子をねじ込み……
そのまま外へと飛び出してしまうのでした!!



というわけで、技術系オタクという意味合いが強い「ギーク」の集まるサークルで、みんなに囲まれながら迷いまくるみなもの日常を描いていく本作。
花屋敷が自分のことを好きだと勘違いしてサークルに入ったものの、気が付けば自分が花屋敷を好きになってしまい、彼に何とか振り向いてもらおうとするみなもなのですが……
なにせ不器用極まりない彼女、どうしてもうまいこと立ち回ることができません!
さらに花屋敷は恋愛なんてれの字も興味のない男。
みなものことが嫌いというわけではなさそうですが、このままでは進展など使用はずもないのです。
そしてこの電子創作同好会には兎澤先輩の他にも濃すぎるメンツがそろっていまして。
彼らがみなもを担ぎ上げてくれるのはいいのですが、やっぱり花屋敷とお近づきになるにあたっては障害にならないはずもなく……!!
さらに今巻中盤からは、この女子の近づく要素がないと思われていた電子創作同好会にまさかの女性新入部員が登場!!
花屋敷との恋どころか、サークルの姫の地位まで危うくなってしまうのか……!?
みなもの苦悩はやむことがありません!
そんなみなもの独り相撲と、個性豊かなサークルのメンバーたちのドタバタに加え、北海道あるあるのエッセンスを加えて、力を抜いて楽しめるコメディに仕上がっているのです!!
そして次巻には大きな動きがありそうな引きで第1巻を締めくくり、ドタバタコメディでは終わらない先の気になる要素もつっこんできまして……
いろいろな部分から目が離せませんよ!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!